地域において担っている役割
当院は萩医療圏で唯一の公立病院として、二次救急医療や小児医療、へき地医療などの政策的医療をはじめ、急性期における地域の中心的な病院の一つとしての役割を担っている。具体的には、病院群輪番制による救急医療を担うとともに、山口県北部地域における急性冠症候群をはじめとした心疾患患者の対応や、医療圏で唯一の入院施設を有する小児科においては入院医療及び専門外来診療、小児救急を担っている。また、へき地医療拠点病院として離島の公立診療所の診療支援(代診、遠隔画像診断、医師の研修受入)の実施や、新型コロナウィルスなど感染症対策においては、入院協力医療機関として人材育成や発熱等の陽性疑いの救急搬送患者の受け入れを行っている。この他にCTやMRIなどの医療機器の共同利用も行っている。
経営の健全性・効率性について
入院収益については、新型コロナ患者受入に伴う病床制限が解除され、前年度と比べ入院収益及び病床稼働率が上昇したものの、看護師不足による4か月間の病床制限等が影響し入院収益の伸び悩みとなった。外来収益については、地域連携に注力し、紹介患者の増加等に取り組んだものの、医師の派遣元の交替や医師数の減少等により前年度と比べ患者数、患者単価が減少し、外来収益の減少となった。医業費用については、人件費単価の上昇による給与費の増加に加え、看護師不足に伴う派遣看護師費用の増加、また人件費を含めた物価の高騰に伴う光熱費や燃料費、施設設備の管理経費等の増加等により医業費用が増加した。医業収益は前年に比べ増加したものの、それ以上の医業費用の増加となり、医業収支比率、修正医業収支比率ともに前年度と比較して大きく低下した、加えて、前年度までの新型コロナ関連補助金の減少の影響もあり、経常収支は約3.3億円の大幅な赤字となり、経常収支比率も大きく低下することとなった。当院は100床という小規模病院でありながら公立病院として様々な役割を求められている。その中で経営改善を進めて行くには、引き続き他の医療機関との連携や適切なベッドコントロールによる稼働率や単価の引上げ等に取り組む必要がある。
老朽化の状況について
開院から既に20年以上が経過し、有形固定資産減価償却率は類似病院平均値を約10ポイント上回るなど施設の老朽化が進んでいる。平成12年4月の移転新築であり、一括して施設設備の整備を行っていることから、同時期に法定耐用年数が経過することになる。今後、屋根・外壁改修、空調設備更新など大規模な改修を控えている。機械備品減価償却率においては、計画的な医療機器の更新に加え、高度医療機器(CT、MRI,アンギオ等)の更新が始まっており、類似病院平均値に比べ低くなっている。当院が地域唯一の公立病院として求められる役割を担うため、地域で必要な医療機器や施設の機能等を備えておく必要があることから、1床当たりの有形固定資産は類似病院平均値よりも高くなっている。事業費の圧縮と年度間での大幅な事業費の変動を避けつつ、地域における公立病院として必要な機能、設備と経営の効率性を比較考慮して実施する必要がある。
全体総括
人口減少や少子化、医療従事者の不足と高齢化など、萩医療圏を取り巻く環境は厳しい状況にある。医療従事者の不足に関しては、特に薬剤師と看護師の不足が深刻な状況であり、派遣に頼らざるを得ない状況が続いており、この派遣に対する委託費が経営を悪化させている要因の一つにもなっている。医業収益はコロナ禍前と比較しても上昇しているものの、人件費の高騰や物価高により費用が大幅に上昇していることから、経営状況は厳しい環境にある。このように、物価高騰などの社会的要因に加え、地域的、病床規模的に厳しい環境下にあるが、医療圏で唯一の公立病院として、地域に必要な医療を将来にわたり提供できるよう、経営強化プランに掲げる取組を推進し、医療人材の確保と定着を図りながら、経営状況の改善に努めていく必要がある。