経営の健全性・効率性について
収益的収支比率が概ね横ばいで推移しています。表面上は良好な経営状況にも見えますが、実際には単年度収支は使用料以外の収入(繰入金)によって収支の均衡が保たれている状態です。また、経費回収率は類似団体・全国平均値と同程度の水準ではありますが、40%代と低い水準で推移しており、汚水処理費の過半数を繰入金に依存していることがわかります。直営の処理場を所有していることにより経費が嵩むことや、それにみあった使用料収入を確保できていないことに起因するものと考えられます。単年度の実質収支において、表面上の資金不足を生じていないというだけで、経営状況については非常に不透明な状態といえます。汚水処理原価は類似団体平均値と比較しやや低く推移していますが、供用開始経過年数や地理的要因など事業体固有の事情により増減する要素があるため、単純比較できる指標ではありません。全国平均値と比較しても事業としての汚水処理費は妥当なものであることが読み取れますが、経費回収率が40%台で推移している状況を考えると現行の使用料体系が適当ではないことがわかります。企業債残高対事業規模比率について、類似団体平均値と比較して約2倍と高い数値となっています。既に整備が完了しており普及率は今後伸びないこと、更新時期などを総合的に考えると、現在の使用料体系に対して企業債残高が過大になっていることを意味し、将来世代に対する負担が高くなっていく可能性があります。水洗化率について、概ね50%台の横ばいで推移しています。類似団体・全国平均と比較しても低い水準であることがわかります。未水洗世帯の自然減により表面上は水洗化率が上向きに見えますが、施設整備は既に完了しており、近年新たに水洗化する世帯は年間数件となっているなかで、節水意識の高まり等もあり近年は有収水量が減少する傾向にあるため、投資効果を最大限に発揮し使用料確保につなげ、経費回収率や施設利用率、企業債残高対事業規模比率を改善するためにも、更なる水洗化率の向上が重要であると考えます。
老朽化の状況について
北斗市の漁業集落排水施設の供用開始は平成11年度となっており、処理場となる浄化槽(躯体)の標準耐用年数は概ね30年、管渠については50年となりますが、いずれも耐用年数を経過していませんが、処理場の機器設備類の耐用年数はさらに短く設備によっては既に更新されているものもあります。標準耐用年数上では、管渠より先に処理場が更新対象となっていくことになります。既に整備完了となっており、維持管理と更新が今後の事業の中心となっていきます。供用開始経過年数から目立った老朽は進行していないと考えられますが、仮に更新するとなれば費用が嵩む処理場や関連設備に対して老朽化への意識を高めていかなければななりません。しかし、耐用年数が過ぎたからといって、そのまま対象となる施設や管渠をすべて入れ替えるというわけにはいきませんし、そのまま放置するというわけにもいきません。重要なことは施設の老朽化状況を的確に把握し、土地の利用形態の変化や住民のニーズに着目し、それぞれの時期でベストな更新・修繕を判断したうえで対処していく必要があると考えています。
全体総括
北斗市の漁業集落排水施設事業は、公共下水道事業ほか3事業をひとつの会計で経理する現金主義の官庁会計方式(単式簿記経理)を採用していますが、資産価値や事業毎の損益が明確にならないため、経営状況の把握や分析が難しい状況です。老朽化の進行に伴う施設の更新費用の把握・財源確保のためには、その前提として、現在保有している資産の価値、及び当該資産に対応する財源を把握し、適正な水準の料金体系を設定することが重要となります。そのため、今後は発生主義の企業会計方式(複式簿記経理)を採用し、トータルコストを把握し経営状況を明確にしたうえで、セグメント情報を開示することにより経営状況の「見える化」にむけた取組をすすめ、経営改善を促進していきます。また、事業の役割を踏まえ、持続可能な事業の実施のため、施設の状況を客観的に把握、評価し、中長期的な施設の状態を予測しながら、施設を計画的かつ効率的に管理するために、「下水道長寿命化計画」の策定や「アセットマネジメント」を導入するなど、各施設の将来劣化予測を行い、管渠等の更新・修繕等を含めた事業費の平準化や過剰なメンテナンスを回避する管理能力の向上を図るなど戦略的な経営のための手法を検討していきます。