経営の健全性・効率性について
累積欠損金は発生していないが、経常収支比率・料金回収率共に、近年、100%を下回り、類似団体よりも低い水準で推移している。また、給水原価についても、近年、類似団体よりも高い水準で推移しており、厳しい財政状況が続いている。この理由については、一部のユーザー企業の契約水量の減量により、有収水量が減少し、給水収益が減収となったためである。流動比率は、前年度に比べ低下したものの、100%を超えており、類似団体と比較して大きく上回っていることから、短期的な債務に関する支払い能力は十分に確保されている。なお、令和2年度については、年度途中から新規ユーザー企業へ給水を開始したことで、給水収益は増収となったが、新規ユーザー企業への引込管設置補助金の支出による費用の増加が、経常収支比率、流動比率及び料金回収率の低下、給水原価の上昇の要因である。施設利用率・契約率については、類似団体と比較して高い水準であるが、本市の事業形態が、山口県企業局から責任水量制により工業用水を受水し、ユーザー企業に供給するものであり、未売水が財政状況に及ぼす影響が大きいため、財政状況を改善するには、より契約率を高めることが必要である。
老朽化の状況について
施設全体の減価償却の状況を表す有形固定資産減価償却率は、類似団体と比較して高く、施設全体の老朽化が進んでいることを示している。また、管路経年化率については、類似団体と比較して大幅に高く、法定耐用年数を超過している管路が75%を超えている。この理由については、事業創設当時である昭和44年、45年に布設した管路の多くが未更新となっているためである。有形固定資産減価償却率、管路経年化率共に改善傾向にあるのは、配水管路2条化事業により、帳簿原価及び管路延長が増加したことが要因である。管路更新率については、平成29年度が特に高い数値となっている。これについては、各年度において布設した管路延長数に大きな差は無いが、当該年度以外は、配水管路の2条化事業により、既設管を撤去せずに新設を行ったため、管路更新率に反映されないことが要因である。
全体総括
本市工業用水道事業は、平成4年10月以降、消費税の転嫁を除いては、料金改定を行うことなく事業を継続してきたが、近年では、単年度収支の赤字が続いており、厳しい財政状況にある。また、令和3年1月から新規ユーザー企業へ給水を開始し、同年6月に契約水量を増量したことにより契約率が向上するが、産業構造の変化等により、水利用の合理化が図られる等、工業用水の需要は近年減少傾向が続いている。一方、施設の老朽化は進んでおり、管路の更新、耐震化対策等により、事業費が増加することは避けられない状況である。これらの状況を踏まえ、本市では、令和3年3月に策定した「下関市工業用水道事業経営戦略」に基づき、経営基盤の安定化、老朽化施設の更新・耐震化、新規ユーザー開拓による未売水の解消及び財源確保のための料金見直しの検討等、本事業が抱える諸課題に着実に対応し、良質で低廉な工業用水を将来にわたって安定的に供給するという使命を果たしていく必要がある。