経営の健全性・効率性について
当市の公共下水道事業の経営状況は、⑥は類似団体とほぼ同基準であるのに対し、④は高く、また⑤は低くなっている。④⑤がともに類似団体より状況が悪くなっている原因は、使用料収入が事業規模に対して少ないためである。使用料収入を分析すると、平成26年度末現在の使用料単価(1㎥の水を流すことで発生する使用料)は91.3円である。これに対し、汚水処理原価(1㎥当たりの汚水処理に要した費用等+管渠の建設時に借りた企業債(借金)の償還費用)は194.8円、そのうち維持管理に要する費用(1㎥の水を処理するのに必要な費用等)は103.6円で、使用料単価よりも12.3円高くなっている。つまり、水を流すことで得られる収益よりも費用のほうが高く、その結果、水が流れれば流れるほど負担が生じているということになる。そして、その差額は一般会計からの繰入金で賄っている。公営企業である下水道事業は、独立採算(自己の収益で費用を賄う)を原則としている。現在は一般会計に不足分を賄ってもらっているが、本来は、「使用料単価=汚水処理原価」が理想的である。汚水処理原価は194.8円と高くなっているが、これは、管渠の建設時に借りた企業債の償還に多額の費用がかかっているためであり、この費用全てを使用料で賄うのは難しいと考えている。しかし、維持管理に要する費用のみでも103.6円となっており、使用料単価と12.3円の差が生じている。そのため、まずはこの差を無くす必要があるが、現在の見込みでは、平成28年度より維持管理に要する費用が少なくなる予定であることから、この差は少なくなると考えている。しかし、それでも「使用料単価>維持管理に要する費用」という状況が改善されないのであれば、最終的には使用料の見直しを行っていく必要がある。
老朽化の状況について
当市の公共下水道事業は、地方公営企業法を適用していないため、減価償却の概念がない。そのため、①有形固定資産減価償却率と②管渠老朽化率は値を算出することができず、明確な数値としての老朽化具合は不明である。しかし、当市の下水道事業は平成元年度から事業を行っており、現在事業開始から25年程度しか経過していないことから、老朽化は比較的進んでいないと思われる。ただし、平成初期に布設した管渠の中にはひび割れ等の不具合も見られており、今後、そのような管渠はどんどん増えていくと見込まれる。今後は、供用開始区域の拡大だけでなく、既存の管渠の補修・改築も必要になってくる。
全体総括
当市の公共下水道事業の経営状況は、決して良いとは言えない。上記のとおり、使用料単価が低いことで、必要な費用が賄えていないことが大きな要因である。現在は、事業開始からまだ日が浅いため、管の補修等に費用はそこまでかかっていないが、今後10年20年と経過するにつれて補修費が発生し、その分維持管理に要する費用が高くなる。すると、ますます使用料単価との差が乖離してしまう。今後の課題は、汚水処理原価を下げること、使用料単価を上げることの2つである。汚水処理原価については、水処理を県の浄化センターで行っている関係上、その維持管理費を当市の努力で下げるのは難しい。そのため、汚水処理原価を下げるには限界がある。また、使用料単価を上げるには、一人ひとりにより多くの水を流してもらう必要があるが、節水が社会の主流である現代において、水をたくさん流してもらうことはなかなか難しい。やはり、使用料単価を上げるためには、最終的には使用料の見直しを行う必要があると考えざるを得ない。